さざなみ読書録

29歳のペーペー社会人が主に本の感想、ごくまれに創作物などを不定期で投稿します。さざなみも立たないような日常。

【1日目】黄金比

黄金比

 手元の辞書*1の記述。

『長方形のうち、元の長方形から短辺を一辺とする正方形を切り取った際に残った長方形が元の長方形と相似であるようなものの縦と横の長さの比のこと。人間の目に一番美しく映る比と言われている。その数値としての比は大きな未解決の問題の一つ*2である。』

 

 僕はこれを見て頭を抱えるほかなかった。仕事の都合上、どうしても来週までに「本物の、つまりきっちりとした、誰も目にも明らかな黄金比」を用意する必要があるが、それはどうやら未解決問題であるらしい。できなければおそらく僕は失職するどころか、下手をすれば生きて年を越せないだろう。

 

 もちろん、「やや黄金比」なるものは昔から考案され、建築や絵画のいたるところで用いられてきた。実際昨日は古代の絵画*3を用意したり、先週は両腕と頭の半分を失くした女性像を盗み出してきたが、それでは不十分らしい。

「やや黄金比」というのは、現在広く一般に用いられる長辺と短辺の比が二対一である長方形から、比較的簡単に作られる。

①長方形を半分に折ると正方形が二つできる。

②折り目の端を中心とし、長方形の頂点を始点として円弧を描く。つまり半径は長方形の短辺に等しい。円を四分割したところまで描くと折り目に到達する(これを点Aと呼ぶ)。

③何も書いていない方の正方形を、先ほどの折り目と垂直に半分に折る。

④①の折り目の真ん中の点を中心、②で書いた点Aを始点に四分割の円弧を描く(円の半径は②の円の半分となり、円弧の終わりは③の折り目に到達する。この点を点Bとする)。

⑤何も書いていない長方形(ちゃんと①~④を実行すれば、短辺も長辺も半分になった元の長方形と相似なものになっているはずである)を半分に折る。正方形が二つできる。

⑥②~⑤を何回か繰り返す。

⑦円弧は「だいたい」ある一点に集まるので、その点を通るように短辺と平行に長方形を切れば、それが「やや黄金比」である。

 

 この算数的アルゴリズムを経れば「やや黄金比」を作るのはたやすい。

ここで⑥を「⑥':②~⑤を無限に繰り返す」に置き換えると⑦の「だいたい」を消去でき、「本物の黄金比」を得ることができる。しかし残念ながらこの作り方には致命的な欠点がある。現在の人類には、無限に②から⑤の工作を繰り返すには寿命が短すぎるのだ。1秒に1回②~⑤をこなしても、80年間でちょうど25億2288万回しか繰り返せない。これは無限には程遠い。

 

 あと一週間、僕はきっと失われた旧時代の人類も悩んだであろう謎に挑戦し、それをクリアしなければならない。文献を探るのも億劫だ。いっそ逃げてしまうおうか。商売道具さえあれば僕はどこでもやっていけるはずだった。

 

 しかし結局のところ、僕はどちらも選ばなかった。完全という語の内包する不完全さにより顧客を満足させる黄金比を見つけ出すことができたからだ。その苦労については15分ではあまりにも時間が足りないので、そのうち記すことにする。

 

 

 

 

 

 

 

 

【次回のテーマ】ランダム単語ガチャより「しいたけ」

*1:大辞典 第12版 民明書房

*2:無理数の存在を認めればこれは全く幼稚な記述である

*3:山と波の絵である。日本の山と思われるが、日本のどの位置から模写されたかは不明