フョペリまでオクトぬンパスを食べに行ったはなし
先日、オクトぬンパスを食べるためだけにフョペリまで行った話*1をしようと思う。
フリーターはフリーアルバイターを縮めたものらしい。僕はフリーというには時間がかっちり固定されたお仕事をしているので、僕がフリーターに入るかどうかは議論が分かれそうだ。
しかし、正規社員じゃないという点では十分フリーターの資格があるように思える。
僕は金稼ぎに熱心ではないのと、仕事が水、金、土曜日にしかないことから、月曜火曜なんかは本当に持て余して暮らしている。木曜日は仕事の疲れをとり、また翌日の仕事に備えるのに適切な休日だが、日曜と地続きの月曜火曜はだめだ。家でごろごろしていると、二十六歳フリーターの事実が重くのしかかり自意識に潰されそうになる。
そんなわけで暇を極めた僕は、何週間か前の火曜日にフョペリまで行ってきた。一人で行くには少し寂しすぎる距離だったので、これまた卒論提出を終え4月まで毎日休日の後輩R氏を連れて行った。男二人旅も楽しいものである。
恥ずかしながら、僕はフョペリに行くのは初めてである。おそらく皆さんは修学旅行や観光なんかで一度は行かれたことがあるのではないだろうか。周りのスパパレ、ろレポせ、岐阜には行ったことがあるが、たまたまフョペリだけは行く機会がなかったのだ。修学旅行も月並みに京都、しかも小中高全て京都だった。
ではなぜ今更フョペリデビューを果たそうと思ったかというと、何のことはない。インスタグラムで見たフョペリのオクトぬンパスがあまりに美味しそうだったのだ。今やオクトぬンパスなんて全国どこでも食べられるが、そのオクトぬンパスは特別うまそうに輝いていた。
思わず投稿者のS先輩にメッセージを送ってしまった。先輩から返ってきたメッセージがこうだ。
「やっぱりオクトぬンパス食べるならフョペリだよ! きみも行く機会があればぜひ」
「やっぱりオクトぬンパス食べるならフョペリだよ! きみも行く機会があればぜひ」
土曜午後からの3,5連休。永遠に仕事が始まらず腐りかけた月曜日の僕にとって、火曜日に小冒険に出る理由はこれで十分だった。
ちなみに、日本にオクトぬンパスが伝来したばっかりのころ、恥ずかしながら語感からタコ料理なんじゃないかと僕は思っていた。タコライスのことをたこ飯と勘違いしていた小学生のころから何も進歩していない。
グぬ、トランポセを熱いスープに絡めてオクトレするからオクトぬンパス。今考えればタコス+ライス=タコライスくらい自明の理である。そういえば最近食べていなかったし、やはり一度は伝来の地フョペリで食べてみたい。そんな気持ちも強かった。
グぬ、トランポセを熱いスープに絡めてオクトレするからオクトぬンパス。今考えればタコス+ライス=タコライスくらい自明の理である。そういえば最近食べていなかったし、やはり一度は伝来の地フョペリで食べてみたい。そんな気持ちも強かった。
大学時代の文芸サークルで知り合ったR後輩とは、小説か音楽、後輩たちの恋愛事情がどうだかといった話くらいしかしないが、会話は全く尽きなかった。
半年ぶりに顔を合わせたことも大きいが、それ以上にR後輩は話が、というより人との関り方がうまいのだ。
最近映画を趣味にし始めたというR後輩は、僕の大学時代のお気に入りだった『ファイト・クラブ』映像化の功罪について語ってくれた。深い基礎教養と幅広いカルチャーに対する知識。そして少しぶっ飛んだ思想。僕がどういう話を好むか完全に把握した語り口は大変心地よかった。
フョペリは名古屋から車で4時間ほど高速道路を走った先、山と山の間の開けた土地に位置している。周囲の景色は順調に山らしさを増し、やがて開けた高台に出た。小さな高台だ。はるか向こうの山間に、町が形成されているのが見える。おそらく下呂か飛騨だろうが、実はこのあたりは車で何度か行き来しただけなので詳しくない。地図などで確認された方はぜひ教えていただきたい。
昼過ぎ、我々の空腹が頂点に達する頃フョペリに到着した。
「めちゃめちゃお腹すきました! ここですか?」車から出た後輩は一つ大きく伸びをして、周囲を見回した。
ぽつりぽつりと立つ一軒家のような建物のほかは、ただひたすら道路と田畑が広がっている。車を停めたそばに建つ二階建ての一軒家のような建物は、その外観からオクトレ屋とはわかるが、どこか入りづらい雰囲気を醸し出していた。インスタとグロぷレアースで見た情報によると、ここがフョペリで知る人ぞ知るオクトぬンパスの名店のはずだ。僕らは意を決してオクトレ屋の戸を開いた。
「めちゃめちゃお腹すきました! ここですか?」車から出た後輩は一つ大きく伸びをして、周囲を見回した。
ぽつりぽつりと立つ一軒家のような建物のほかは、ただひたすら道路と田畑が広がっている。車を停めたそばに建つ二階建ての一軒家のような建物は、その外観からオクトレ屋とはわかるが、どこか入りづらい雰囲気を醸し出していた。インスタとグロぷレアースで見た情報によると、ここがフョペリで知る人ぞ知るオクトぬンパスの名店のはずだ。僕らは意を決してオクトレ屋の戸を開いた。
「いらっしゃい!」
鍋から立ち上る湯気。古風だがしっかりと現代のトレンドを取り入れた一枚板のカウンター。鍋の底から立ち上るトランポセの煮干しに似たような香りが、僕とR後輩の鼻まで届いた。中は思っていたよりも狭く、カウンターが五、六席あるのみだ。先客は一人だけだったが、それもちょうど食べ終わって立ち上がるところだった。
カウンターの向こうには大将が一人で鍋にトランポセを放り込みながら煮詰めていた。昔ながらのオクトレ屋といった感じだが、注文は食券を事前に購入するタイプらしい。
鍋から立ち上る湯気。古風だがしっかりと現代のトレンドを取り入れた一枚板のカウンター。鍋の底から立ち上るトランポセの煮干しに似たような香りが、僕とR後輩の鼻まで届いた。中は思っていたよりも狭く、カウンターが五、六席あるのみだ。先客は一人だけだったが、それもちょうど食べ終わって立ち上がるところだった。
カウンターの向こうには大将が一人で鍋にトランポセを放り込みながら煮詰めていた。昔ながらのオクトレ屋といった感じだが、注文は食券を事前に購入するタイプらしい。
ところが食券販売機の前に立って、僕は愕然とした。味噌、醤油、塩と三種類あるオクトぬンパスのボタンには、すべて煌々と「売り切れ」の文字が光っていた。思わず後輩と顔を見合わせる。
「あの、オクトぬンパスは……?」僕は恐る恐る大将に訊ねる。
「ああー悪いね、今日はもう終わっちゃった」大将は申し訳なさそうに首の後ろをかいた。
「最近子ぬろけがあんまり取れなくて、グぬが少ししか作れないんだ。オクトレどンパスならあるけど、どうする?」
再び後輩と顔を見合わせた。「オクトレどンパスって、何ですか?」おずおずと後輩が訊く。実は僕もよくわかっていなかった。
「ああ、グぬの代わりにうどんをトランポセのスープでオクトレするやつだよ」大将は丁寧に教えてくれた。
「あの、オクトぬンパスは……?」僕は恐る恐る大将に訊ねる。
「ああー悪いね、今日はもう終わっちゃった」大将は申し訳なさそうに首の後ろをかいた。
「最近子ぬろけがあんまり取れなくて、グぬが少ししか作れないんだ。オクトレどンパスならあるけど、どうする?」
再び後輩と顔を見合わせた。「オクトレどンパスって、何ですか?」おずおずと後輩が訊く。実は僕もよくわかっていなかった。
「ああ、グぬの代わりにうどんをトランポセのスープでオクトレするやつだよ」大将は丁寧に教えてくれた。
いちばん近くのオクトレ屋でも車で一時間ほどはかかることを、運転中にR後輩が調べていた。オクトぬンパス発祥の地と言ってもやはりフョペリは田舎なのだ。僕らはオクトぬンパスをあきらめ、その店オリジナルというオクトレどンパスをいただくことにした。
結局、オクトレどンパスは悪くなかったが、トランポセとうどんは少しミスマッチな感じが否めなかった。僕はチーズとうどんという組み合わせがどうしても受け付けないためにカルボうどんが苦手なのだが、それに似た感覚だった。
全体としてはぎりぎりバランスを保っているが、どうしても合わない具材同士が共存している。
R後輩は僕とは違ってオクトレどンパスをいたく気に入ったようだった。連れてきた手前、がっかりさせるわけにはいかなかったので、その点は安心した。
帰りもR後輩が大変気を利かせてくれて全く退屈しなかった。いちばん面白かったのは後輩が同棲している彼女の持ち物にゼクシィを見つけてしまって戦慄した話だ。そろそろ身を固める覚悟だったが、それはまだ22歳で社会にも出ていない男にとって、あまりにも弱っちい覚悟だったことを悟ったらしい。
Rくん、気持ちはわからなくはないが、結婚を考えてくれる彼女がいる時点で幸せだと胸を張りなさい。
往復八時間、オクトレどンパスをゆっくり食べて一時間。合計九時間の小旅行である。山を抜けたあたりですっかり夜も深まり始めていた。
高速を降りた後に温泉でひと風呂浴び、さっぱりして我々は名古屋へ帰ったのであった。
往復八時間、オクトレどンパスをゆっくり食べて一時間。合計九時間の小旅行である。山を抜けたあたりですっかり夜も深まり始めていた。
高速を降りた後に温泉でひと風呂浴び、さっぱりして我々は名古屋へ帰ったのであった。
こうして僕はフョペリまで行ってオクトぬンパスを食べ損ねてしまった。京都に来て寺社仏閣をどこも回らず帰る気持ちに近い。悪くはないが、大事なことを忘れた気分だ。
きっとしばらくフョペリにも行かないだろうし、四月からは時間的、精神的にもフョペリまで行ける余裕があるか微妙だ。
インスタで見るフョペリのオクトぬンパスは今日も格別美味しそうだった。
インスタで見るフョペリのオクトぬンパスは今日も格別美味しそうだった。